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1.オリジナル作品で世界観づくりをしてみたら
2.自分だけが、好きなことに大金を使っていいの?
3.もうひとつのひっかかり
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オリジナル作品で世界観づくりをしてみたら
もうひとつの事例をお話します。私の代表作WAKAは、和歌を読んで得た印象をビジュアライズする作品です。
自分ひとりで世界観を作りました。
前述した「うつつの狭間」ほどしっかりした世界観はなく、先にモノができて、作品ありきでどんどん進めていました。
2018年
家族を置いて家を空けての、初めての京都展を決めていました。ところが…
3ヶ月前。逃げ出したい気持ちでいっぱいでした。
自分が好きで始めてやるって決めたことなのに、やりたくない。出すモノも作ってない。作る気にもならない。無気力感でいっぱいでした。
11月末の展示会なのに、9月初旬に毎日ベッドで寝てたんです。
無気力の理由…今ならはっきりわかります。
これやって、どうなるの? って思っていました。
『たとえ完売したって赤字だ』ってはっきり分かっていたから。
自分だけが、「好きなこと」に対して大金を使っていいの?
遠方で展示会を開くというのは
ギャラリーを借りる以外に交通費と宿泊費がかかります。飲食費も。それ以外に作品の送料、ディスプレイに使う備品の購入費そのた色々色々いろいろ。数万円でできることでは、ありませんで。その上、売り物のカードの単価1300円です。インフルエンサーが友達にいるわけでもない。というか、知り合いすら、ほとんどいない場所での展示会です。
5万とかの赤字じゃない、かなり、自分としては、捨て身の額でした。
特攻隊に出向くようなものだったのです。
これに投じたら、いつか必ず何かで返ってくる?なんて…
なんの保証もない。ただお金使っちゃうだけ?っていう、そういう怖さでした。しかも、それまで色々作品を作って来たから、貯金もいい加減使ってしまって
これで終わりだって思いました。
何十年もデザイナーをやってきたけど、もうこれで、終わりだって。もう、これを終えたら、個人事業でデザイナーなんて、言ってられない。派遣で働くとかスーパーのレジ打ちのパートに出るとか。そういう道しかないだろうって思っていました。いま冷静に考えると、それも「なんで?」と突っ込みどころ満載なのですが、当時はそういう切迫感に襲われていたんです。だから、やりたいことだけどやりたくなかった。お金にすごく余裕があったら、そこまで怖くなかったと思います。
また、家族に対する後ろめたさもありました。
夫も娘もいる中で、自分のお金だからって自分だけが、「好きなこと」に対して大金を使っていいの?
そういう思い。
だって…
そのお金があったら、習い事だってもっとやらせてあげられるし、欲しいって言ってる本も全部買ってあげられるし、夫だってどこ行きたいとか、何をやってみたいっていうのを全部叶えてあげられるのに。
というのが、プライベートでの心の引っ掛かり。後ろめたさでした。
もうひとつのひっかかり
もうひとつの引っ掛かりは
WAKAという作品のなかで何を作ったらいいのか、自分がわからなくなっていたんです。
デジタルデータがあるから、なんだって作れるんですよね?
とっかかりはグリーティングカードだったけど
Tシャツだって、マグカップだって、スマホカバーにだってできる。キーホルダーだって、ピアスにだって。
じゃあ、栞をつくろうか名刺に展開しようか。
なんだって作れるだけに、何を作ればいいか?がわからなくなっていたんです。
そんなある日。降ってきました。コンセプトが。
それまで、なんのためにこの作品を作っているのか、この作品を通してどうなりたいのか・どうしたいのか。作品のコンセプトブックなどを作るために言語化していたけど、実は自分にバシッとハマる言葉には出来ていなかったんです。だから自分に力が入らず、行動することができませんでした。
でも、たったひと言の短いコンセプトを得たら、この時もスパーンと何かが、全てがつながりました。軸が通ったんです。そうしたら、やらなくていいことも分かったんです。
コンセプトは、こういう文言でした。
言葉を、アートに。
伝えたい想いが、怖さを上回った
これを起点に考えたら、やっぱり自分の作るべきものはグリーティングカードしかない、他のものは一切作んなくてもいいや、くらいに思えました。
だから、スマホケースやアクセサリーは、そこから一切作ろうと考えたこともありません。作れなくもないけど、作る必要がない。
また、言葉をアートにしたい、この想いを誰かに伝えるんだって、使命感を得たら、赤字になることや、家族や社会に対しての後ろめたいことが、怖くなくなりました。みんなに見せたい、伝えたいって想いの方が、色々な怖さを上回ったんです。
そこからは、ひたすらに自分に集中しました。「言葉をアートに、するんだ!」っていう気持ちで、たった二ヶ月だったけどやれることは全部やり尽くしたし作れるものは全部作って、京都に行きました。行動できるようになったのです。誰に何を言われたからではなく、自分の内側から力が湧いてくる。そういう体験でした。
決めなかったら絶対できないことでした。行動できなかった。
決めたら、行動できるようになったんです。努力なんかいらなかった。心が勝手に、そこへ向かうからです。
結果として、展示会の収支はもちろん赤字でしたけれど5日間で10万円を売り上げました。
10万円なんて、会社を経営している方や、お勤めでいいお給料をもらっていたり、大きなビジネスに携わっている人から見たらちっぽけな額でしょう。でも、なんの肩書きもないただの一個人が、なにかをゼロから作って売るって、やってみたことありますか?
大変なことなんです。有形無形に関わらず。ものを、売るって。
しかも単価は1300円の、一般人の作品で10万円です。誰も知り合いのいない土地で。私には数倍の価値があることでした。
伝えたい人に、伝わった
そんな安堵感と言いようのない幸福感に包まれて、ビジネスホテルの小さいベッドに倒れこんで寝ました。
余談になりますが、私が家を空けて遠方に一人でいくことに対して、最初に背中を押してくれたのは当時は小学生だった娘です。「お母さん行って来なよ」って、声をかけてくれました。夫も荷造りを手伝ってくれて、新幹線に私を乗せてくれました。私の思いの強さが、彼らに伝わったからだと思っています。
これが、世界観作りを始めた理由の二つ目になります。
ものを売るって、大変なことです。なんの準備もせずに、ただ単にぽんと商品を並べたって売れるわけがない。皆さんそれをあまりにも知らないから、やってみて売れなくて、落胆てしまう。でもそうじゃないんです。
売れないのが、普通ですよ。
そこからが、ほんとうのスタートなのです。
最後に。フリーランスとして生きてきた私の、どうしても世界観づくりをしなければならなかった理由をお話しします。
(続く)
私が世界観づくりを始めた理由:エピソードゼロ
私が世界観づくりを始めた理由:1
私が世界観づくりを始めた理由:2(前)
私が世界観づくりを始めた理由:2(後)
私が世界観づくりを始めた理由:4
私が世界観づくりを始めた理由:5(終)
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