「それであなた、何を売ってるの?」
そう聞かれたそうです。夫が。
会って2回目くらいの私の父に。
。。。
それはまだ私が結婚する前でした。
夫と知り合ってまだ間もない頃。
当時私の“彼氏”だった現在は夫のY氏は、
長野に転勤になっていました。
たまに私も東京から行ってたのですが、
ほとんどの週末は
Y氏が東京に帰って来ていました。
Y氏は建設業の会社員をしています。
その頃も現在も、営業です。
突然の支店勤務で、
とまどっていただろう頃。
父がいい感じに酔いが回って来たころに、
そんな問いかけを受けました。
ちょっと、想像してみてください。
つきあい始めたばかりの彼女の実家で、
仕事してなくて酒癖のあまり良くない父親と、
向かい合ってお酒飲む。
うす汚れた赤いペーズリーのガウンにパイプ。
主婦のいなくなったまま放置されて
荒れ放題のキッチン、時計の音が響いてる。
、、、、、
だいぶ、微妙ですよね。笑
父も昔、商社で働いていて
営業をやっていましたが、
いろいろあって自ら無職になり
早々に年金だけの暮らしを始めていました。
文才があったのでそちらに進めばよかったのに、
どう間違えたものか
親のコネで商社に入ったものの。
長年、「社会性」と「自分の個性」の剥離に
苦しんだのだと思います。
晩年はスロープをすべるように、
ササーっと堕ちていきました。
そんな父ですが、
営業の能力はすごくあったようです。
誰でも知っているお菓子のメーカーなどに
機械の部品を売っていました。
部の半期の売り上げを早々に
一人で片付けてしまっていたと、
母から聞いたことがあります。
「あの人はさ、俺が全部やったんだー、って
顔に出して、隠さないんだからね。
それで皆んなから嫌われちゃうんだよ。
たらい回しにされても、
どこでも数字上げちゃうから、よけいに。」
私が20歳になったあたりで家を出た母は、
そう私に言うとき、
言葉とは裏腹になぜか誇らしげでした。
「あの人、仕事できちゃうんだよ、すごく。」
営業の話は、私も父から聞いた記憶があります。
おぼろげに覚えているのは
べらべらしゃべらないこと
相手の話を聞くこと
最後に買うか買わないか、はっきり聞くこと
要は、おどおどするな。
ということだったように思います。
赤い薔薇を好んだ父は、
文学と抽象度の高い話が好きでした。
そういう、家系でした。
。。。
それで?あなた、何を売ってるの?
自己紹介も兼ねたことでしょう、
自分の仕事の話をひと通りした後で
そう聞かれたY氏は、
言葉に詰まったと言います。
建設業なのだから、
自社の技術を売ってるのだけど…
もっと高い視点で見たときに、
何を売ってるのか?
そういう問いかけに対して、
答えられなかったと。
それからずっと考えた、と言っていました。
自分の答えを出すまでに、
それなりに時間を要したようです。
実は…私もそうなんです。
かれこれ25年近く、
グラフィックデザインやディレクションを
個人事業でやってきてるんですけど、
今となっては扱うジャンルは紙だけじゃなく
布のプロダクト・イラスト・コンセプト…
ときにライティングまで。
なにをやってるんだか、正直だんだん
分からなくなってきていました。
マーケティングやブランディングの
勉強をすれば、『○○の専門家』になれ。と
言われますよね?
専門。
私の専門て?
グラフィックデザインは専門だけど...
私より長けている人、センスのいい人は
ごまんといるし、かないません。
繊維(布)のものづくりが好きです。
撮影アレンジやライティングだってするし、
作品づくりは譲れない。どれも私の一部です。
どこかひとつだけに絞ってあとは捨てる、となると…
どこを切り取っても、『私』じゃないな。
なんとなくそう思いました。
問いに答えられるようになったのは、
ほんのつい最近のことです。
さて。
これから起業しようとしている、
もしくは新しい事業を展開しようとしている
あなたにもお聞きします。
クライアント様にもお聞きしています。
『何を売ろうとしていますか?』
…1秒ではっきりと答えることができる方には、
この話の続きはお役に立たないかもしれません。
あしからず。
(明日に続く)
冒頭のグリーンのイラストは父が描いたもの。
ボールペンに水彩。
。。。。。。。。
1秒で私らしさを伝えよう。
ブランディングやデザインの前に、世界観のデザインを。
*世界観コンセプト・メイキングの募集は不定期に行なっています。
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